抄録
トリゴネリン(TG)は、マメ科植物に見られるニコチン酸由来のアルカロイドである。TGを合成するミヤコグサの培養細胞を用いて、細胞の成長に伴うNADとTGの生合成に関わるde novo経路とサルベージ経路の活性変動が、in situにおける[3H]キノリン酸と[14C]ニコチンアミドの代謝から推定された。NAD生合成のde novo経路の最大活性は細胞の対数増殖期で見られたが、サルベージ経路の活性の増加は、細胞を新たな培地に植え継いだ直後の誘導期で見られた。一方、TGの生合成活性は、細胞成長の定常期に増大することが示された。NAD合成に関連する遺伝子の発現プロフィールを、ミヤコグサの遺伝情報を用いて、RT-PCRにより調べた。サルベージ酵素であるニコチン酸ホスフォリボシルトラスフェラーゼ (EC 2.4.2.11) とニコチンアミダーゼ (EC 3.5.1.19) の遺伝子であるNaPRTとNICの転写レベルは、誘導期で増加したが、NAD合成酵素の遺伝子NADSの最大発現は対数増殖期で見られた。さらに、in vitroにおける酵素活性を検討した結果、上記のサルベージ酵素活性は、定常期の細胞を新しい培地に移した後1日で増加することが認められた。細胞の成長に伴うNADとTG生合成の活性変動とその制御について考察する。