抄録
ウキクサ科(Lemnaceae)の植物は、植物体サイズの小ささ、成長の早さ、無菌培養の容易さなどの理由により実験室での研究に適した単子葉植物として古くから生理学的実験に使用されてきた。近年、バイオレメディエーション用の植物としても注目されている。Lemna属(アオウキクサ属)の植物は、花芽形成、光周性、概日リズムなどを含め広く生理学的研究の対象として使われてきた。また我々はLemna属の植物で、パーティクルボンバードメントによる発光レポーター発現系を利用した時計遺伝子の分子生物学的解析を現在進めている。一方、2009年にSpirodela属のウキクサ(S. polyrhiza)のゲノムプロジェクトがDOE JGIで開始された。ウキクサはゲノムサイズが約150 Mbpと小さいためにその対象となった。しかし例えば生殖様式に関して冬眠芽(Turion)形成による無性生殖や中日性の花芽形成などの報告はあるものの、その誘導方法が確立していないなど、生理学的実験手法が未開発である。我々は生物時計解析に応用できる研究環境の開発を目指してウキクサの生理学的特徴を多面的に調べている。また、概日リズムの解析のためにLemna属で用いている発光レポーター発現系のウキクサでの応用可能性を検討した。本発表ではこれらの研究の現状について報告し、ウキクサのモデル実験生物としての可能性について議論する。