抄録
多くの被子植物では、受精卵は異なる発生運命をもつ 2 個の娘細胞(頂端および基部細胞)からなる 2 細胞胚へと不等分裂し、また、この際に確立される頂端-基部軸が植物体の軸形成の始まりとされている。本発表では、イネ 2 細胞胚の頂端または基部細胞で差位的発現を示す遺伝子の同定について報告する。まず、in vitro 受精法により作出したイネ in vitro 受精卵と胚嚢内の受精卵の分裂様式を詳細に比較した。その結果、イネ in vitro 受精卵は、胚嚢内における受精卵と同様に、細胞質に富む小さな頂端細胞と液胞が発達した大きな基部細胞からなる 2 細胞胚へと不等分裂することが示された。次に、2 細胞胚からの頂端細胞および基部細胞の単離法を確立したのち、卵細胞、受精卵、頂端細胞、基部細胞、2 細胞胚の1細胞マイクロアレイ解析を行った。その結果、「受精卵で発現し、かつ、 2 細胞胚の頂端細胞でのみ発現する遺伝子」および「受精卵で発現し、かつ、 2 細胞胚の基部細胞でのみ発現する遺伝子」の候補が同定された。イネ受精卵中では、約 14,000 個の遺伝子が発現しており、そのうちの約 0.5 - 1% の遺伝子転写産物が、頂端または基部細胞のみで検出された。このことは、特定の mRNA群が受精卵中で極性分布している、あるいは 2 細胞胚中の一方の細胞内で分解を受けることを示唆している。