抄録
アマモ(Zostera marina)は、生活の場を陸上から再び海中に移した単子葉植物である。アマモは、陸生の単子葉植物と類似した形態を示す一方、海中での生活に適するための特殊な生理・生態を示す。しかし、アマモの生理メカニズムに関してはまだ不明な点が多い。本研究では、アマモの種子発芽に着目し、その生理メカニズムの解明を目的とした。まず、種子発芽に影響を与える環境要因について解析した。環境要因としては、温度、塩分濃度、浸透圧、光、揺動運動、溶存酸素を取り上げた。その結果、低温(15℃)、低塩分濃度(22.5‰以下)、24時間暗期、揺動運動の条件下で発芽が促進された。浸透圧については、低浸透圧ほど発芽が促進された。溶存酸素については、嫌気条件(DO. <2 mg/l)では発芽体の幼葉鞘の伸長が促進され、好気条件(DO. 7 mg/l)では第一葉の形成が促進された。次に、発芽への植物ホルモンの効果を解析した。その結果、アブシシン酸によって幼葉鞘の伸長と第一葉の形成が抑制されたが、ジベレリンによる発芽促進効果は確認されなかった。これらのことから、アマモの種子発芽には、環境要因や植物ホルモンに対する特殊な応答性が存在することが明らかになった。 現在、サブトラクション法によって種子発芽に関わるアマモ遺伝子の単離を進めており、その結果についても併せて報告する。