抄録
夏に播種したダイコンなどの冬一年生植物は、秋にはロゼット型を保ち、冬の低温を感受した後、春の長日条件で茎を伸長させ(抽だい)開花する。一般にロゼット型はGA不足により、また抽だいはGAの増加により生ずると考えられている。しかし、ロゼット型は植物体を地際に保持させ、強風や大きな日夜温較差から身を守るために積極的に獲得した形質であると考えられ、何らかの抽だい阻害(抗抽だい)物質が関与している可能性が高い。そこで抗抽だい活性の生物検定法を考案し、ダイコンの抗抽だい物質の検出を試みた。ロゼット型のシュート抽出物中には強い活性が認められた。活性を指標とし、各種のクロマトグラフィーを用いて活性物質を単離し、hexadecatrienoic acid monoglycerideと同定した。この物質は茎頂分裂組織の活性(葉の枚数)には影響せず、節間伸長のみを阻害した。圃場で育成したダイコンを用いて、抽だいに伴う活性物質の変動を調べた。ロゼット型のシュートには抗抽だい物質は高濃度で存在したが、やがてその含量は大きく減少し、その後抽だいが生じた。また植物体を4℃に置くとシュートの活性物質は完全に消失し、23℃に戻すと活発に抽だいした。以上の結果は、ダイコンは抗抽だい物質を生成して節間伸長を抑制してロゼット型を維持し、抗抽だい物質の減少により抑制が解除され、節間が伸びて抽だいが起こることを示している。