抄録
ブラシノステロイド(BR)は、植物の生長調節に必須の植物成長ホルモンである。これまでに我々は、様々な光条件下で生育したイネの内生BR量を測定した結果、白色光または青色光下で生育したイネの茎葉部において、特にtyphasterol、castasteroneといった6-オキソ系のBR量が顕著に増加していることを見いだした。一方、赤色光、近赤外光下では、暗黒条件下とほぼ同程度の内生量であった。また、根では、光条件の変化によるBR内生量の明瞭な増減は認められなかった。そこで、茎葉部でのBR生合成遺伝子発現に対する光の影響を明らかにするために、リアルタイムPCR法を用いて、詳細な遺伝子発現解析を行った。その結果、青色光および白色光条件下では、C-6酸化酵素をコードしているP450の一種であるCYP85A1遺伝子の発現が、暗黒条件下と比較して顕著に増加していることが明らかとなった。一方、赤色光、近赤外光では、このような発現量の増加は認められなかった。以上の結果から、白色光下で生育したイネ茎葉部での内生BR量の増加は、主に青色光成分によってCYP85A1遺伝子の発現が誘導された結果、C-6酸化過程が促進されたものと考えられる。