抄録
アグロバクテリウムが植物に感染するとTiプラスミド上のT-DNA領域が宿主細胞の核ゲノムに組み込まれる。T-DNA領域にはサイトカイニン(CK)合成酵素(Tmr)やオーキシン合成酵素がコードされており、両ホルモンの過剰生産により細胞の腫瘍化が誘導される。これまでに我々は宿主細胞内で発現したTmrがプラスチドに移行し、HMBDPを専らの基質としてトランスゼアチン(tZ)型CKを直接合成することを明らかにした[PNAS (2005) 102: 9972]。しかしTmrが植物とは異なるCK合成経路を駆動する意味についてはよく理解されていない。そこで本研究ではTmrと、Tiプラスミド上にもう一つ存在するTmrホモログ(Tzs)の生化学的な比較解析を行なった。TmrとTzsはin vitroではDMAPP, HMBDPに対する基質親和性はほぼ同じであったが、DEX誘導型過剰発現シロイヌナズナ株を用いた実験では、TmrはHMBDPを優先的に利用していた。プラスチド移行シグナルを付加したTzs (TP-Tzs)の過剰発現株では、iP型、tZ型CKともに過剰に蓄積した。このことからTmrはプラスチド内で優先的にHMBDPを利用できる何らかの機能を有していることが示唆された。現在T-DNA上のTmrをTzs, TP-Tzsに置換した組換えアグロバクテリウムの腫瘍形成能力について比較検討を行っている。