抄録
植物ホルモンの一つであるエチレンは,植物の生育において多面的な作用を引き起こす。しかしながら,エチレンが細胞に及ぼす影響については不明な点が多い。そこで,発育段階初期のキュウリを用いてエチレンが及ぼす影響について解析を行った。具体的には,子葉の葉身が2cm展開したキュウリに対して,3種類の濃度(0.014mM,0.07mM,0.35mM)のエテホン処理を行った。その結果,0.35mMのエテホン処理区では,対照区と比べて,子葉の上偏成長だけでなく,小さな本葉が次々と展開する現象が認められた。また,いずれの処理区においても,子葉表面に存在するトライコーム周辺の表皮細胞の肥大と核DNA量の増加が認められた。さらに,エテホンを処理した子葉では,トルイジンブルーOはトライコーム周辺の肥大した表皮細胞を特異的に染色することが明らかとなった。0.35mMのエテホン処理により次々と展開した本葉では,対照区と比べて,葉面積が小さく,かつ,表皮細胞の細胞数が有意に少ないことが判明した。以上の結果は,エチレンは,細胞分裂を終えた組織(子葉)においては,一部の細胞(トライコーム周辺の表皮細胞)の肥大,核内倍加,およびポリフェノール化合物の蓄積を促進する一方で,茎頂分裂組織(本葉)においては,細胞分裂を抑制することを示唆している。