抄録
ペリディニン含有渦鞭毛藻は、二次共生により葉緑体を紅藻から獲得したアルベオラータの一分類群である。渦鞭毛藻の葉緑体ゲノムは、他の藻類や植物のような単一の環状染色体としてではなく、ごく限られた数の遺伝子が一つずつ小さな環状分子“ミニサークル“上に存在している。例えば渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseのpsbAは全長1041塩基であり、20塩基の逆方向反復配列を含む残りの”非コード領域“と共に5.7kbのミニサークル構造をもつ。我々は、このA. tamarenseのミニサークルゲノムに、通常型psbAとともに低頻度だが存在する4種類のpsbAバリアントを発見した。これらpsbAバリアントは奇妙な構造をもち、通常型遺伝子のコード配列の全長(若しくはほぼ全長)を保持するにもかかわらず、挿入や転位などの構造変異のためにタンパクの全長をコードできない。一般に他の藻類や植物では、葉緑体ゲノム上の遺伝子は1種類でありヘテロプラズミーは不安定である。しかし渦鞭毛藻のバリアントは淘汰されることなく、培養条件下で3年間維持されていた。ミニサークル構造、転写、RNA編集等の特徴について、4種類のpsbAバリアントが通常型psbAと高い類似性を示したことから、機能未知ではあるが細胞内で何らかの役割を担っていることが示唆される。