抄録
H+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)は、液胞膜に局在するプロトンポンプであり、植物ではH+-ATPaseとともに液胞の酸性化機能を担っている。H+-PPaseは細胞質のピロリン酸を消去して高分子合成を促進し、プロトンを液胞内へ輸送する2つの機能を持つため、高分子合成の盛んな若い細胞、あるいは酸素が不足しATP生産能力の低下した状況ではH+-PPaseの役割が大きくなると予想される。そこで、研究対象として、深水条件という酸素が不足した環境で著しい節間伸長を示す浮イネを用いることとした。
浮イネに深水処理を行い、節間下部でのプトロンポンプおよびアクアポリンの量の変化を、mRNAおよびタンパク質レベルで測定し、深水処理をしない浮イネと比較した。その結果、深水条件ではH+-ATPaseよりもH+-PPaseの方が優先的に合成され、その量も、細胞伸長による液胞の増大に伴い供給されることが分かった。また、液胞膜型アクアポリンTIPでは、水透過活性の高い2つの分子種において、深水処理によりmRNA量、タンパク量ともに著しく増加することが確認できた。したがって、これらの分子が液胞の増大ひいては細胞伸長を支えることが示唆された。その他にも、機能未知の多くのアクアポリンが深水処理により明確な変化を示し、深水処理の程度や日数による違いも観察された。