抄録
植物の光受容体であるフィトクロムはSer/Thrキナーゼであるが、その活性ドメインはまだ明らかにされていない。フィトクロムのヒスチジンキナーゼ様ドメイン(HKLD)はヒスチジンキナーゼと相同性をもち、キナーゼ活性ドメインとして有力な候補の一つであるが、ヒスチジンキナーゼ活性に必須なヒスチジンはない。本研究では溶液NMRを用いてHKLDのキナーゼ活性の解明を目指した。最初にHKLDの構造情報を得るため、イネPhyB HKLDの発現・精製を行い、選択ラベルや非線形サンプリング法などの溶液NMRの最先端手法により主鎖シグナルの帰属を行った。化学シフト及び二面角情報を元に精密化されたモデル構造から、HKLDはヒスチジンキナーゼなどのGHKL型キナーゼ/ATPaseと同様な構造である事が示唆された。さらにADP/ATPアナログの滴定実験を行ったところ、シグナルに変化があった残基はGHKL型キナーゼ/ATPaseのATP結合モチーフ付近に位置した。次にイネPhyB及びシロイヌナズナPhyAのHKLDを高純度に精製し、ATPase活性を解析したところ、両者のHKLDから弱いながらATP加水分解活性が観測された。さらにATP結合モチーフ付近の点変異によるATP加水分解活性の阻害や、GHKL型キナーゼ/ATPaseの拮抗阻害剤Radicicolの結合活性及びATP加水分解活性の阻害効果が確認された。