抄録
ホウライシダ前葉体細胞の赤色光による葉緑体光定位運動はneochrome1 (neo1)を光受容体とし、光の方向に依存した運動であることが知られている。しかし、neo1を欠失した変異体においても、赤色光下で葉緑体定位運動が起こることを我々は報告した(2009年度日本植物生理学会年会)。neo1変異体の葉緑体は赤色光の方向に依存しない運動を示し、細胞側面(dark position)から細胞表面(light position)へ定位運動を示す。この光定位運動は光合成阻害剤で阻害され、また、暗所下でも培地へのglucose, sucrose添加により誘導されることから光合成に依存した反応である。野性株では核もneo1を受容体とし、光方向に依存した運動を示すことが知られている。そこで、今回、neo1変異体での赤色光による核の光定位運動を調べた。その結果、核も葉緑体と同様の光定位運動を示すことが明らかとなった。さらに、この反応は赤色光の方向に依存せず、また、glucose, sucrose処理により暗所下でも誘導されることから、光合成に依存した反応であることがわかった。従って、ホウライシダ前葉体細胞の赤色光による葉緑体と核の光定位運動には、neo1による光方向に依存した指向的な運動とともに光合成に依存する無指向的な運動が関与することが明らかとなった。