抄録
青色光受容体フォトトロピン(phot1, phot2)は、シロイヌナズナにおいて光屈性, 葉緑体光定位運動, 葉の平坦化, 気孔の開口等の生理応答を誘導する。phot1とphot2はよく似たドメイン構造をもつが、phot2のみ強光下において特異的に葉緑体逃避反応を誘導する。ところが、このようなphot1とphot2で異なる生理応答を生み出すメカニズムはほとんど明らかでない。本研究では、キナーゼドメインのアクティべーションループに存在するphot1特有の847番目のArgを、phot2の同じ位置のアミノ酸であるThrに置換したphot1をphot1phot2二重変異株に導入し、変異phot1が誘導するフォトトロピンの生理応答を調べた。その結果、この形質転換植物は、phot1に依存した上記の生理応答を誘導し、さらに、強光下において葉緑体逃避反応を誘導するようになった。以上の結果は、たった一つアミノ酸を置換するだけでphot1はphot2の機能を模倣することができるようになる事を示し、キナーゼのアクティべーションループのアミノ酸配列がシグナル伝達の特異性を生み出す可能性を示唆している。