抄録
植物は効率よく光エネルギーを吸収するために、光強度に応じて葉の厚さや柵状組織を変化させる。強光に馴化した植物の葉は厚く、縦に長く伸びた柵状組織が発達しているが、逆に弱光に馴化した葉は薄く柵状組織の発達はみられない。柵状組織が発達する際には、下位の成熟葉が強光を感知して、上位の未成熟葉にその情報が伝わることや、細胞の縦方向への伸長に青色光が関与することが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。我々は、柵状組織の発達を誘導する光シグナルの解析を行った。タバコの一枚の成熟葉にのみ、強光を照射すると、未成熟葉が成熟した際に、柵状組織の発達が見られた。また、シロイヌナズナにおいて青色光と赤色光による違いを解析したところ、200 μmol photons m-2 s-1以上の光強度の青色光下では柵状組織が発達したが、同じ光強度の赤色光下では柵状組織が発達しなかった。これに対し、100 μmol photons m-2 s-1以下の低い光強度では青色光下でも赤色光下でも柵状組織の発達は見られなかった。これらの結果から、柵状組織の発達には一部の葉が感受した強光シグナルが、優先的に上位の未成熟葉に伝えられること、また青色の波長以外にも光強度を感知する機構が存在することが示唆された。本発表では柵状組織を発達させる光や長距離シグナルについて考察する。