抄録
アルミニウム(Al)による細胞伸長阻害や細胞死の機構解明をめざし、Alの糖代謝への影響を解析している。タバコ細胞をカルシウムと糖のみを含む培地で培養した場合、外液からの糖の取り込みが細胞内の遊離糖含量の増加を引き起こし、それが水吸収(すなわち細胞伸長)の駆動力として働いている。遊離糖含量の増加は、糖の吸収と消費のバランスである。Alは糖の吸収を阻害するが、一方で有機酸分泌やカロース合成を促進し糖の消費を促進していると考えられる。そこで、本研究では、タバコ細胞株(V9)とV9でコムギ由来のAl活性化型リンゴ酸輸送体遺伝子ALMT1を過剰発現しAl耐性を示す株(T4)(Sasaki et al. 2004)を用い、Alによる有機酸分泌やカロース合成が細胞内遊離糖含量の低下に関わる可能性を検討した。V9では、80%の増殖能を与える低濃度のAl処理でも、遊離糖含量の増加を著しく阻害し、カロース合成を促進したが、T4では、10%の増殖能を与える高濃度のAl処理でも、遊離糖含量の増加が見られ、カロース合成は完全に阻害された。Alによる遊離糖の低下量は、リンゴ酸分泌やカロース合成量の100倍以上あった。以上の結果より、Alによる遊離糖の低下は、リンゴ酸分泌やカロース合成では説明できないこと、一方、リンゴ酸分泌は、細胞内でカロース合成を阻害し、糖の取り込み阻害を抑制する可能性が示唆された。