抄録
近年、X線結晶構造解析によりSynechococcus elongatusの光化学系I(PSI)には反応中心当り4分子の脂質(1分子のMGDGと3分子のPG)が結合していることが明らかになった。今回、Synechocystis sp. PCC 6803 において、Hisタグを付加したPsaJサブユニットを発現する株(J-His)を用いてPSIを精製し、生化学的方法によりPSIに含まれる脂質を分析した。その結果、Synechocystis sp. PCC 6803のPSIには反応中心当り6分子の脂質(2分子のMGDG、1分子のDGDG、1分子のSQDG、2分子のPG)が検出された。新奇に同定された糖脂質であるDGDGのPSIにおける役割を調べるため、J-Hisにおいて、DGDG合成酵素の遺伝子を破壊し、DGDG合成欠損株を作製した(dgdA /J-His)。この株から分離したチラコイド膜及び精製したPSIの酸素吸収活性を測定したところ、双方において活性がJ-Hisよりも30%程度低かった。精製したPSIをBN-PAGEにて分離すると、J-Hisは常に三量体が殆どを占めていたが、dgdA /J-Hisの場合、殆どが単量体で占められていることがあった。これらの結果から、DGDGはPSIの三量体の安定化や、活性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかになった。