抄録
Psb30はPSII複合体を構成するサブユニットとして見いだされた、膜を1回貫通する5 kDaのタンパク質である。Psb30はCyt b559から15~20 Aの距離に位置すると推定されるが、PSIIにおける役割は不明である。本研究では、Thermosynechococcus elongatusのPsb30欠損株を作製し、その性質を野生株と比較した。Psb30欠損株から精製したPSIIは野生株のPSIIと同じ酸素発生活性を示したが、Psb30欠損株の細胞では野生株より1.2倍高い活性を示した。強光照射条件下でタンパク質合成阻害剤を添加して培養すると、Psb30欠損株の失活速度は野生株よりも速かった。阻害剤を添加せずに培養すると、野生株では1時間で20%活性が低下したのに対し、Psb30欠損株は30%低下し、同時にカロテノイドの増加が認められた。Cyt b559のヘム鉄のEPRシグナルから、野生株では光照射によってHP型になるが、Psb30欠損株はLPのままであることが分かったので、Psb30の欠失によりCyt b559のレドックスが変化して副次的電子移動に影響を与えたために、強光照射下で水の酸化機能が低下したと考えられる。以上の結果より、Psb30はPSIIの機能には直接関わっていないが、複合体構造の保持、特に、機能的なCyt b559の構造保持に重要であることが明らかになった。