抄録
植物は、光合成により光エネルギーを用いて物質変換を行っている。われわれは光合成を利用した不斉反応系の開発を目的として、植物個体あるいは培養細胞を生体触媒として用いたケトン類の不斉還元を行っている。今回、シロイヌナズナ芽生えを触媒に用いて、種々の条件下における収率およびエナンチオ選択性の検討を行った。
基質のケトンとしてtrifluoroacetophenone またはt-butyl acetoacetate (tBAA)を加えた反応液に、無菌培養したシロイヌナズナ芽生えを加えて振盪した。24時間後、反応液を回収し、ガスクロマトグラフィーで還元反応の生成物であるアルコールの収率およびエナンチオ選択性の定量を行った。
その結果、シロイヌナズナ芽生えはケトン類の不斉還元の触媒としてはたらくことがわかった。特にtBAAの場合、エナンチオ選択性は99%以上であった。どちらの基質においても、収率は光照射下で高いこと、光合成器官において高いことから、この還元は光合成に依存した反応であることが示唆された。また、収率とエナンチオ選択性は芽生えの齢による差がほとんどなく、生成物の85-90%は反応液中へ分泌されるという生体触媒としての優位性も認められた。以上の結果より、光合成を利用した不斉還元の触媒として、シロイヌナズナ芽生えが有用であることを示した。