抄録
植物の形態形成の基礎をなす細胞の運命決定には、個々の細胞の位置情報が重要である。この位置情報の伝達手段の1つである原形質連絡は、自身のSEL(サイズ排除限界)を調節し高分子シグナルの輸送を制御することで、結果的に植物発生に重要な役割を果たしていると考えられている。
原形質連絡のSEL制御は被子植物において解析が進められており、植物体の特定の部位や発生段階に応じてその時空間的な制御が確認されている。しかし被子植物の体制は様々な種類の細胞が3次元的に積み重なって構築されているため、細胞間連絡は複雑であり細胞レベルでSEL制御を解析することは困難である。
そこで私達は細胞レベルでの観察が簡便なヒメツリガネゴケを用いてこの問題に取り組んでいる。特に原糸体と呼ばれる組織は細胞が1つ1つ一列に並んだ1次元、もしくは分枝を形成した2次元の体制からなる単純な組織である。これまでにその原糸体において光変換型蛍光タンパク質Dendra2を構成的に発現させることで、高分子の細胞間移動の細胞レベルでの可視化に成功した。またこの観察から原糸体の頂端から2番目の細胞と5番目の細胞では各々の隣接細胞へのDendra2の移動速度に違いがあることを見出した。この結果はヒメツリガネゴケにおいても細胞の発生段階に応じたSEL制御が存在することを示唆しており、現在細胞の分化状態とSEL制御の関係の解析を進めている。