抄録
lec1 等、シロイヌナズナleafy cotyledon 型変異体では、胚発生過程において種子成熟プログラムが正常に作動しない一方、子葉でのトリコーム形成など、発芽後成長過程の事象が胚形成過程において発現するため、ヘテロクロニック変異体として位置づけられる。しかしこのような異時的性質の分子メカニズムに関する知見は限られている。我々はマイクロアレイにより、これら変異体胚において異時発現する遺伝子を多数同定した。今回は、胚において特に強く異時発現する遺伝子PYK10 に着目した。ERボディー局在型β-glucosidaseをコードするこの遺伝子は、発芽直後から表皮組織で発現するが、胚形成過程では強く抑制されている。野生型胚では発現しないPYK10 プロモータ:GFP をlec1 背景に導入すると、初期ハート胚においてstochasticな GFP発現が1細胞単位、あるいは隣接する数細胞単位で観察されはじめ、胚発達とともに発現細胞数が細胞列に沿って増加した。このような発現パターンは、エピジェネティックな発現抑制の解除を想起させ、LEC1がこのような発現抑制の維持に機能している可能性が示唆された。さらに我々はPYK10:GFP 植物を用いて、GFPが胚において異時発現する新奇変異体を複数単離しており、その性質も含めて胚発生における時間依存的な遺伝子発現抑制について考察したい。