抄録
イネ登熟期の高温は胚乳の白濁化と収量の減少を引き起こすことが知られている。我々はこの現象の分子メカニズムを解明するため、これに似た表現型を持つflo2変異体との比較を行った。網羅的遺伝子発現解析では、物質貯蔵や細胞機能制御に関わる遺伝子のほか、リボソームタンパク質遺伝子やATPの代謝に関わる遺伝子の発現が共通して減少していることが示唆された。そこで3種類の栽培種とflo2変異体について高温および常温環境下での登熟期のイネ種子のATP量をモニターした。ATP濃度は登熟期に上昇していたが、このATP濃度はflo2変異体と高温環境下で生育した野生型では低い値を示した。また栽培種のひとつである金南風は高温環境下でも登熟中期のATP濃度に差が無く、白濁化や粒重の減少がみられなかったため、高温による登熟障害に抵抗性を有することが示唆された。このATP代謝に関わる遺伝子を同定するため、マイクロアレイ解析により抽出されたATP代謝に関わる遺伝子の発現を解析したところ、あるF1ATPase様遺伝子は登熟期に発現が上昇し、高温下ではこの上昇が抑制されることが明らかとなった。