抄録
種子は登熟後に生長を停止し、休眠性を獲得する。一般に、休眠性を保持する種子は、生育に適した温度・光環境で吸水しても発芽しない。しかし、休眠種子が後熟や低温吸水、硝酸処理などを受けると、休眠性が打破され発芽できる状態となる。このうち後熟は、登熟種子が乾燥保存を経ることにより起こる現象である。現在、遺伝リソースが充実しているシロイヌナズナ・アクセッション(Columbia-0, Landsberg erecta)は、いずれも数週の後熟で休眠性を喪失する。このため近年では、半年以上の後熟を経ても休眠性を維持するCape verde islands-0(Cvi-0)が注目されている。一方、種子休眠性は、種皮が胚の生長を抑える能力(種皮休眠性)と胚自体が休眠性を維持する能力(胚休眠性)のバランスにより決まる。Cvi-0は登熟直後には種子および胚の休眠性を示すが、4週の後熟を経ると、種子休眠性を保持したまま胚休眠性を喪失することがわかった。つまり、後熟したCvi-0種子の休眠性は、種皮に大きく依存している。そこで、後熟を経ても胚休眠性を維持する高休眠アクセッションを選抜した。最も胚休眠性が深い系統では、胚がジベレリンや硝酸に非感受性を示した。本発表では、胚休眠種子と種皮休眠種子における内生ホルモン分析と遺伝子発現解析の結果を紹介する。異なるタイプの休眠性を規定する要因について議論したい。