抄録
花の発生、分化、形態形成には多くの転写因子が関与している。これらが花きの形質改変に利用できること、機能解析の先行するシロイヌナズナの転写因子を用いることで遺伝子単離の手順を簡略化できることなどが、我々の形質転換トレニアの解析から明らかになってきている。一方でどの転写因子が有用形質を付与するかは形質転換体を作出しなければ評価できないという問題がある。そこで有用形質花きをより効率よく作出するため、多種類の発現ベクターを一括して導入するバルク感染を行い、得られた形質転換体から有用な表現型を持つ個体を選抜し、どのような遺伝子が形質改変に有効であるかを調査した。器官発生や細胞分化に関わると考えられるシロイヌナズナの転写因子50種類に転写抑制ドメインを付加したキメラリプレッサーを構築して本手法でトレニアに導入し、402系統の形質転換体を得た。花の形質に着目して選抜した結果、花冠サイズが大きくなったもの、ブロッチ(下弁のカロテノイド斑)の幅が拡大したもの、花弁縁片が内反あるいは鋸歯化したもの、花弁の配色パターンが変化したものなどが得られた。本手法により、効率的な花きの形質改変が可能となるだけでなく、形質転換体で見られた表現型が遺伝子の機能から推測されるよりも遙かに多彩であることから、モデル植物では明らかにならなかった転写因子の新たな機能の解明にもつながると期待される。