抄録
植物は多様な二次代謝産物を生産し、外敵から自らを守る自己防御システムとして用いている。タバコ属植物においては、主要アルカロイドのニコチンが昆虫への防御物質としての役割を果たす。ニコチンの生合成は虫害等によりジャスモン酸シグナル経路を介し、根で特異的に誘導された後、導管輸送により緑葉へ転流・蓄積することが知られている。しかし、その転流機構はこれまでほとんど明らかになっていない。演者らは近年、タバコ培養細胞BY-2において、ジャスモン酸処理によりニコチン生合成遺伝子と同様に発現誘導される4種類のトランスポーターcDNA (Nt-JAT1, Nt-C215, Nt-T449, Nt-T408) に着目し解析を進めている。本発表では、Nt-T408の解析結果について報告する。Nt-T408をクローニングしたところ、全長約2 kb、507アミノ酸をコードし、12回膜貫通型のNCS1(Nucleobase cation symporter-1)ファミリーに属することが判明した。本遺伝子は植物体の根、茎、葉の各組織で発現しており、またタンパク質は液胞膜に局在した。機能解析を目的として、Nt-T408発現酵母にニコチンを投与したところ、コントロール酵母に比べ細胞内ニコチン含量が有意に少なかった。現在、植物体での生理的役割を明らかとするため、形質転換体の作成を行っている。