抄録
活性酸素種(ROS)を介した酸化的シグナリングは種々の環境ストレス応答に必須の役割を担っている。高等植物において、葉緑体は主要なROSの生成部位であるため、種々のシグナルの発信源であると考えられる。これまでに我々は、葉緑体由来のROSを介した環境ストレス応答機構を明らかにするため、シロイヌナズナにおけるチラコイド膜結合型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(tAPX)の一過的発現抑制系を構築してきた。マイクロアレイ解析を行ったところ、tAPXの抑制に伴い約800の遺伝子群が誘導/抑制され、それらには種々の植物ホルモンや耐病性、細胞死などに関連する遺伝子群が多く含まれていた。そこで、葉緑体由来の酸化的シグナリングの分子機構を明らかにすることを目的として、葉緑体ROSに応答する遺伝子群の破壊株から、パラコートによる光酸化的ストレスに対して感受性あるいは非感受性を示す変異株(それぞれpssおよびpsi)の選抜を試みた。その結果、独立した3つのpsi(psi1~3)株および1つのpss(pss1)株が得られた。PSIsおよびPSSI株の転写レベルはパラコート処理後の初期段階で抑制されたが、後期段階で誘導された。現在、新たな変異株の選抜とともに、PSIsおよびPSSIの機能解析を進めている。