抄録
小胞や小管を介したオルガネラ間輸送,いわゆる「膜交通(メンブレントラフィック)」は,原始真核生物から人間や植物を含む現存の生物に至るまで保存された,真核細胞に普遍的な生命活動である.同時に,多様な体制や生命現象に応じ,その分子機構や生理的機能は進化し,洗練されてきたと考えられる.我々は,植物が示す多様な高次機能において膜交通(特にポストゴルジ輸送網)が果たす役割を明らかにするとともに,植物が進化の過程で獲得した独自の膜交通制御システムの分子機構と生理的意義の解明を目標とし研究を行っている.真核生物におけるオルガネラや膜交通の多様化の過程には,RAB GTPaseやSNAREなどの分子の多様化が重要な役割を果たしたと考えられている.そこで,植物が独自に獲得したRAB GTPase(ARA6)とSNARE(VAMP727)に注目し,その機能解析を行った.その結果,それらの分子が制御する膜交通経路を明らかにし,植物が独自の仕組みによりポストゴルジ輸送網を多様化させてきたことを示すことができた.本講演では,植物の膜交通の独自性に焦点を当て,その分子機構と生理機能,および進化について考察したい.