抄録
ルーピンやヤマモガシ科など一部の植物は貧栄養条件下で生育する場合、クラスター根とよばれる特殊な形状の根を形成する。クラスター根は二次根の特定の位置に形成されるブラシ状の小根の集団であり、表面積の拡大と根分泌物を爆発的に増加することで養分吸収能を高める組織として発達したものと考えられている。クラスター根の形成は特にリン欠乏時に顕著に増加し、土壌中の未利用リンの獲得に寄与している。ルーピンの場合、成熟したクラスター根ではクエン酸の分泌量が顕著に高まり、そのキレート能によって難溶性無機態リンを溶解してリン酸を放出する。クエン酸は微生物による分解を受けやすい化合物であるが、根圏土壌の酸性化や抗菌性物質の分泌によりその分解から逃れていることが示唆されている。また、酸性ホスファターゼ(APase)の分泌して有機態リンを分解し、無機態リンを放出する能力も高まる。クラスター根圏土壌のAPaseの主要な活性は根分泌物に由来し、微生物の寄与は低いことが示された。この根分泌性APaseの至適pHは4.3と極めて低い。このことはAPaseが多量に分泌されるクラスター根圏土壌が酸性化されてクエン酸が保護されることと矛盾しない。土壌中では無機態のみならず有機態リンも難溶性となりやすいことから、クラスター根においてAPaseと同時にクエン酸の分泌量が高まることは有機態リンの分解においても重要であると考えられる。