抄録
数理モデルは、仮定とした条件が正しいときに「起こり得ること」と「絶対に起き得ない」こととを予測する。したがって、数理モデルからの予測によって想定すべき事柄を絞り込めると同時に、予測したデータと実測したデータとを比較することで仮定に盛り込んだ自分の仮説をテストすることができる。こうした数理モデルの利点を利用して、枝に付く葉へ均等に水が輸送されるメカニズムの解明に迫った。
高い生産を維持するためには、十分な量の水が根から移動して葉へ供給される必要がある。個体が大きくなる植物種では、葉の付いている位置によって水の移動距離は大きく異なる。移動距離が長いほど水は行き渡りにくくなるので、単純に考えれば、個体が大きくなるほど、また枝の先端の葉ほど水の供給が少なくなることになる。こうした枝内での水の移動量の偏りを防ぎ、均等な水の分配を可能にするメカニズムを、植物体内を水が拡散方程式に従って移動するという仮定に基づいた数理モデルから予測した。この結果、1) 輸送径路の側軸方向(葉や小枝)よりも主軸(幹や大枝)が十分に流れにくいことが重要である、2) 枝分かれの数が多いほど主軸と側軸の流れにくさに大きな差が必要になる、ことがわかった。
この予測を全長が10 mを越すクズのシュートを使って検証し、茎が非常に流れ易いことと同時に葉身が非常に流れにくいことが均等な水輸送に重要であることを明らかにした。