抄録
マメ科植物と根粒菌の間で相利共生が成立することは、病原体に対する宿主側の防御システムが根粒菌に対しては発動されないことを意味するように考えられがちである。すなわち、マメ科植物は、細胞内共生体である根粒菌を病原体と区別して認識する能力を持ち、その結果、親和性の根粒菌は防御システムによる攻撃に曝されることなく共生を成立させると考えられてきた。しかし、近年の研究成果は、マメ科植物は自然免疫や病原応答類似の手段により、根粒菌感染の中絶や窒素固定能力の低い根粒菌の排除を行っていることを示しつつある。これに対して、根粒菌は、活性酸素種(ROS)除去酵素の発現や膜成分を変動させることにより宿主からの攻撃を受動的に回避するか、菌体外へ多糖類や蛋白質を分泌することにより宿主の攻撃を積極的に抑制すると考えられている。私たちは、マメ科のモデル植物の一つであるミヤコグサの根粒菌Mesorhizobium loti MAFF303099株について、ROS除去酵素であるカタラーゼやSOD、膜タンパク質であるBacAや3型分泌系の変異体を作製し、共生形質を解析してきた。得られた結果の多くは、もう一つのマメ科のモデル植物であるタルウマゴヤシの根粒菌Sinorhizobium melilotiの相当する変異体と異なる形質を示し、2つのマメ科モデル植物の間で根粒菌に対する攻撃の程度が異なることを示唆した。