抄録
病害抵抗性に関わる植物ホルモンシグナルとして、サリチル酸、ジャスモン酸、エチレンの機能が解析されてきたが、近年、病害抵抗性シグナルにおけるアブシジン酸の機能に関する研究が急速に進んできている。植物への処理が病害抵抗性を弱めるという現象の解析から始まり、最近では、上記のホルモンシグナルとの相互抑制的クロストークの機構が解明されつつあるとともに、アブシジン酸合成能が同定された病原菌の数も増えてきており、植物の病害抵抗性シグナルをアブシジン酸が負に制御することは確実なものとなっている。一方で、アブシジン酸が気孔の開閉を通して病原性細菌に対する抵抗性に働く等の作用も見出されている。したがって、病害抵抗性においてアブシジン酸は、植物の組織、病原菌の種類、さらに生育環境条件等の様々な要因によって多様な生理作用に働いている。植物―微生物間相互作用は共生菌・病原菌のいずれの場合も多種多様な微生物との関わりであり、ここではアブシジン酸は多才な役割を担っていると推察される。環境ストレス応答におけるアブシジン酸シグナルの詳細が急速に解明されつつあることから、それらの情報も利用して、生物間相互作用におけるアブシジン酸の役割についても新たな知見が見出されてくることが期待される。