抄録
食虫植物であるモウセンゴケ属は,一般に貧栄養湿地に生育する.トウカイコモウセンゴケ(Drosera tokaiensis;Dt)と両親種であるモウセンゴケ(D.rotundifolia;Dr),コモウセンゴケ(D.spathulata;Ds)の生育地の水質調査を行ったところ,硝酸イオン濃度はDrは0~3.3μM(平均0.9μM),Dsは3.1~39.7μM(15μM)であるのに対し,Dtは0~148μM(43μM)と適応範囲が幅広い上に高濃度であった.Dtの両親種であるDrとDsは単一系統に属し,モウセンゴケ属内で近縁な関係にあるので,3種の性質を比較するために窒素栄養濃度と生育の関係を調べた.その結果,DtとDsは富栄養条件下でも生育可能でありDrは富栄養感受性が高いことが明らかとなった(2009年度本学会報告).このような窒素環境への適応の度合いは,硝酸同化システムの違いに起因すると考え,3種の硝酸還元酵素(NR)と亜硝酸還元酵素(NiR)のcDNAの単離と解析を行っている.取得したNRとNiRおよびRbcLの推定アミノ酸配列について無根系統樹を作成したところ,NRとNiRはRbcLで作成された系統樹とは異なるプロファイルであった.他の植物及び3種間での比較を行った結果から予想されるモウセンゴケ属のNR,NiRの獲得時期について考察する.