抄録
光合成生物であるシアノバクテリアは光や栄養などの外部環境の変化に応答して代謝状態を柔軟に調節していると考えられるが、栄養欠乏条件などに対する代謝物量やその変化を直接調べた例はほとんど報告されていない。そこで炭素・窒素・硫黄代謝の中枢を担っているアミノ酸の細胞内プールを、ガスクロマトグラフィー質量分析機を用いて定量し、窒素欠乏時にシアノバクテリア中の遊離アミノ酸量がどのように変化するかを測定したところ、硝酸イオン欠乏培地に移してから24時間以内に多くの基本アミノ酸量が一過的に増加していた。特に、チロシンとリシンは通常の培地で培養した場合の数十倍まで蓄積した。この蓄積は窒素欠乏条件で24時間培養した培地に硝酸イオンを添加することで6時間以内に解消した。窒素環境はタンパク質の合成・分解サイクルと密接に関わっていると考えられ、シアノバクテリアSynechocystisでは窒素欠乏時に集光タンパク質複合体であるフィコビリソームが分解されることが知られている。今回見出したアミノ酸量の変動に対するフィコビリソーム分解の寄与を調べるため、分解に必須の遺伝子であるnblA1/A2を破壊した変異株を作製し、窒素欠乏下におけるアミノ酸プールの挙動を調べたのでその結果について報告する。また、炭素の安定同位体を用いて測定した、アミノ酸の窒素欠乏下での新規合成量についても合わせて発表する予定である。