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「種」は遺伝子交換が可能な集団と定義され、種間で不和合を引き起こし、遺伝子交換を妨げる遺伝的機構は生殖的隔離と呼ばれている。様々な生殖的隔離は種分化および種の多様性を生み出す原動力となるが、その機構の多くは未解明のままであった。栽培イネ(Oryza sativa)はindicaとjaponicaの二つの亜種に分類され、両者の交雑では様々な障壁が観察される。我々はjaponicaの日本晴とindicaのカサラスとの雑種で花粉不発芽を引き起こす重複遺伝子DOPPELGANGER (DPL) 1とDPL2を単離した。両遺伝子は異なる染色体上に位置し、高い相同性を持つパラログ遺伝子である。DPLは高度に保存された植物特異的なタンパク質をコードし、成熟花粉で高発現していた。発現解析と遺伝学的解析からカサラスのDPL1と日本晴のDPL2は機能欠損型であり、両機能欠損アリルを併せ持つ雑種花粉は不発芽となることから、機能的なDPLは花粉発芽に必須であることが分かった。また、42種の他の被子植物と、43のイネ近縁種を用いた系統学的解析から、DPLの重複、機能欠損および隔離の成立時期を推定できた(Mizuta et al., 2010)。本発表ではDPL遺伝子の機能についても考察する。