抄録
被子植物の重複受精過程において、雌性配偶体を構成する卵細胞、中央細胞、助細胞は、それぞれ固有の機能をもつ。しかし、これらの機能がどういったメカニズムや遺伝子発現様式によって獲得されるかは明らかでない。我々は、胚嚢が裸出する植物のトレニアと、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、顕微細胞操作と分子解析を組み合わせた解析をおこなっている。トレニアでは、未熟な雌性配偶体をin vitroで培養して、ライブイメージングにより成熟までの詳細な発生の様子をとらえた。さらに、未熟な細胞、または核をレーザー除去して培養することで、各細胞が機能を獲得する仕組みを解析した。これにより花粉管誘引能の獲得には、発生過程における雌性配偶体内の細胞間相互作用が重要であることが示唆された。現在、これを分子的に示すべく各細胞特異的な遺伝子を探索し、定量的PCRをおこなっている。シロイヌナズナでは、各雌性配偶体細胞を蛍光タンパク質で標識した胚珠を酵素処理し、高精度マイクロピペット法により、効率よく単離する系を確立した。さらに、回収した各細胞1個ずつからRNAを抽出してRT-PCRをおこない、各細胞に特異的な遺伝子発現を確認した。この手法により回収した野生型の助細胞と卵細胞、花粉管誘引が異常になるmyb98変異体の助細胞について、次世代シークエンサーによる遺伝子発現解析をおこなっているので、合わせて紹介したい。