抄録
オーキシンによる伸長生長の促進は酸成長説により基本的に説明される。この説によると、オーキシンは細胞膜プロトンポンプの機能を亢進してアポプラストへの水素イオン放出を促進し、細胞壁タンパク質を介して細胞壁の伸展性を増大させる。細胞膜プロトンポンプの機能亢進は同時に細胞膜の過分極を引き起こし、電位依存内向き整流性K+チャネルの活性化による溶質取り込みと水吸収を促進すると考えられる。このように、細胞膜プロトンポンプは酸成長において中心的な役割を果たしているが、その活性化機構は未だ明らかになっていない。そこで、オーキシンによる細胞膜プロトンポンプの活性調節機構を解明することを目的として、シロイヌナズナ黄化胚軸を研究材料としたオーキシン誘導性伸長生長の実験系を整えるとともに、細胞膜プロトンポンプの活性化と伸長促進との関連性を調べた。
内生オーキシンを枯渇させた胚軸片にオーキシンを付与すると約10分後に胚軸伸長の促進が観察された。また、細胞膜プロトンポンプの阻害剤(バナジン酸)はオーキシン誘導性胚軸伸長を完全に抑制し、活性化剤(フシコクシン)は伸長を促進した。これらの結果は、シロイヌナズナ胚軸片においても細胞膜プロトンポンプの活性化がオーキシン誘導性伸長生長に必須であることを示唆している。オーキシンによる細胞膜プロトンポンプ活性化機構について生化学的解析を行ったので合わせて報告する。