抄録
植物における有用タンパク質生産は、生産コストと病原菌混入リスクの低減が期待される。特に、植物葉緑体は高い外来タンパク質合成能力を持つことから、近年、葉緑体遺伝子工学による有用タンパク質生産技術が注目されている。ヒトチオレドキシン1 (hTrx1) は、抗酸化、レドックス制御機能を持つストレス誘導性タンパク質で、酸化ストレスが関与する様々な疾患に対する医療用タンパク質として期待されている。我々は、タバコ葉緑体由来のpsbAプロモーター下流にhTrx1遺伝子を連結した発現カセットをレタス葉緑体ゲノムのrbcL-accD間にパーティクルボンバードメント法により導入した。得られた形質転換体の生育は正常で、種子の取得が可能であった。ホモプラズミックな形質転換体の成熟葉において、hTrx1蓄積量は可溶性タンパク質の約3%であった。また、形質転換レタス葉から精製したhTrx1はインスリンのジスルフィド結合還元活性を有し、機能的であった。さらに、レタス産生hTrx1は、大腸菌組換えhTrx1と同様に、マウス膵臓由来MIN6細胞の過酸化水素障害に対する保護効果を示した。本研究は、生理活性を有するhTrx1の植物での生産に成功したはじめての報告である。レタスが可食性の葉物野菜であることから、この形質転換レタスは医療用タンパク質hTrx1の経口投与を可能にすると期待される。