抄録
高等植物において色素体は組織や発達時期に応じて様々な形態へと分化する。我々の研究室では、シロイヌナズナ緑葉由来のT87培養細胞を遮光状態で培養して白化させた細胞をベースに、光照射の有無、あるいは加える植物ホルモンを調整することで、アミロプラストや葉緑体への分化を誘導する系を確立した。このうち、原色素体からアミロプラストへの分化誘導では、タバコBY-2細胞を用いた分化誘導系(Miyazawa et al., 1999)での知見と同様に、アミロプラスト分化を特徴づけるデンプン粒の蓄積が観察された。また、このデンプン蓄積は、カナマイシンなどの色素体遺伝子発現の阻害剤を加えることで有意に低下することが示された。BY-2細胞では、これら一連の分化誘導、阻害条件と連動して核ゲノムにコードされているデンプン合成遺伝子群の発現量が変動することが確認されている(本橋ら、本年会)。この現象は、核コードの光合成関連遺伝子LhcBの発現制御におけるプラスチドシグナルの関与と類似していると言える。本発表では、これまで葉緑体から核への情報伝達における役割を中心に研究が進められてきたプラスチドシグナルが、アミロプラストを含む多様な色素体への分化機構においても関与しているかについて、T87細胞への形質転換系を駆使したプラスチドシグナル関連遺伝子群の遺伝学的解析の結果も交えながら議論したい。