抄録
シロイヌナズナのcrumpled leaf (crl)変異体は著しい矮性で、葉緑体が巨大化し数が減少するとともに花、茎、根等の器官に異常形態を示す。原因遺伝子CRLは明確な機能ドメインを持たないが葉緑体外包膜に局在するタンパク質をコードしている(Asano et al., 2004)。ヒメツリガネゴケはCRL相同遺伝子を3コピー (PpCRL1、PpCRL2、PpCRL3)もつが、PpCRL3は偽遺伝子であった。本研究では、単純な体制をもつヒメツリガネゴケのCRL遺伝子が、シロイヌナズナ同様に葉緑体の分裂と形態形成に関与しているかを明らかにすることを目的として解析を行った。相同組換えによりPpCRL1、PpCRL2、PpCRL3それぞれの遺伝子破壊株を作製したが、いずれの表現型も野生型と差が見られなかった。次にPpCRL1と2の二重遺伝子破壊株を2株得ることに成功した。これらは、野生型に比べ生育が遅く茎葉体は野生型の60%くらいのサイズである。1細胞あたりの葉緑体の数が野生型の25%と少なくまた巨大化していた。また、シロイヌナズナのCRLを用いて相補実験を行った結果、植物体葉緑体ともに野生型とおなじ表現型に回復した。これらのことから、ヒメツリガネゴケのPpCRL1とPpCRL2遺伝子はシロイヌナズナのCRLと同様の機能を持つことを明らかにした。CRLの機能について考察する。