抄録
スルフォキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)は、酸素発生型光合成生物のチラコイド膜に普遍的に存在し、また紅色細菌Rhodobacter sphaeroidesやマメ科植物の根粒菌でも認められる。チラコイド膜では、光化学系の機能がSQDGにより安定に維持され、一方、緑藻では硫黄欠乏条件下、SQDG分解により、タンパク質合成のための細胞内硫黄源が確保される。酸素発生型光合成生物では、sqdB、sqdXの各遺伝子がコードするUDP-sulfoquinovose synthase、SQDG synthaseが順に働き、SQDGが合成される(以後、I型のSQDG合成系とする)。一方、R. sphaeroidesのSQDG合成には、sqdBに加え、I型にはそのホモログが存在しないsqdA、sqdC、sqdDの各遺伝子が必要とされる(以後、II型のSQDG合成系とする)。本研究では、近年のゲノム情報の進展をもとに、I型、II型のSQDG合成系遺伝子に関して、その生物種での分布を調べた。I型のホモログは、酸素発生型光合成生物以外では、サーマス門、クロロフレクサス門、アクチノバクテリア門等、種々の分類群に点在していたのに対し、II型のホモログは、プロテオバクテリア門に局在していた。これにより新たにSQDGを持つと示唆された生物種について、その脂質を分析したので、その結果もあわせて報告する。