抄録
脂質はその機能によって膜脂質、貯蔵脂質、保護脂質に分けられる。グリセロ脂質は膜脂質の主要成分であり、物理化学的にはグリセロ脂質のみで脂質2重膜を形成できるが、生体膜にはステロールやスフィンゴ脂質が含まれる。生体膜の機能にとってはこうした脂質の多様性が重要だと考えられる。私たちはステロールが伸長生長や花粉の成熟に重要な役割を果たすことを分子遺伝学的研究によって明らかにしてきた。では細胞レベルでは生体膜脂質環境におけるステロールの果たす機能はなんであろうか?シロイヌナズナのステロール生合成経路欠損変異体を網羅的に収集し、ステロールとグリセロ脂質プロファイルの相関について解析を行なったので報告する。
収集した変異体のグリセロ脂質プロファイルをLC-MSで分析した。その結果、細胞膜脂質の主要な構成成分であるリン脂質のプロファイルはどの変異体でも大きな影響は無く、ステロールの量や組成の変動はステロール以外の細胞膜構成脂質プロファイルに影響を与えないことがわかった。ステロールも細胞膜脂質の構成成分であることを考えるとこれは予想外の結果であった。一方、葉緑体脂質である糖脂質のプロファイルはステロール生合成律速酵素HMGRの変異体で変化していた。葉緑体型リン脂質であるPG含量はこの変異体でも野生型と変わらないことを考えると、糖脂質特異的な生合成制御機構にHMGRが関わっているのかもしれない。