抄録
光化学系IIの修復過程は活性酸素に対して感受性が高く、修復の阻害が光化学系IIの光阻害を促進する要因となっている。これまでにD1タンパク質など修復に必要なタンパク質の新規合成が活性酸素によって翻訳伸長の段階で阻害されることが明らかになっている。さらに、タンパク質合成系の中で、翻訳因子EF-Gが活性酸素により特定のCys残基が酸化され、ジスルフィド結合を形成して失活することも示唆されている。
本研究では、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の葉緑体型EF-G(Slr1463)に着目して、その過剰発現株および酸化の標的Cys残基をSerに改変したEF-Gを発現する変異株を作製し、強光下でのタンパク質合成および光化学系IIに対する影響を調べた。EF-G過剰発現株では強光下でD1タンパク質の新規合成が促進したが、バクテリア型のEF-GホモローグSll1098の発現が著しく低下し、他の多くのタンパク質の新規合成が抑制された。一方、改変型EF-Gを野生型EF-Gと共発現させた株では、強光下でD1タンパク質の新規合成のみが著しく促進した。さらにこの変異株では、光化学系IIの光阻害が緩和した。光化学系IIの光損傷の過程が影響を受けなかったことから、EF-Gの改変により強光下で修復が促進され、光阻害が緩和したことが示唆される。