抄録
マメ科植物の根には根粒菌が感染して根粒が形成される。根粒では植物が光合成産物の提供等を行い、根粒菌は大気中の窒素ガスをアンモニアに変換して植物に供給することで相利共生が成立している。一方で土壌中には病原菌を含む様々な微生物が存在しており、これらを排除するために植物は防御機構を備えている。根粒菌などの共生微生物が、宿主植物の防御機構により排除されずに受容される仕組みについては明らかになっていない。
マメ科植物は、根粒菌が分泌するNod ファクター(以下NF)を認識することで共生応答を開始する。NFはキチンを基本骨格とした化合物であり、非還元末端側に脂肪酸残基が結合した構造を持つ。一方でキチン自体は菌類の細胞壁成分であり、植物に防御応答を誘導するエリシターとして研究されている。最近になって単離されたNF受容体およびキチン受容体は、互いに高い相同性を持つLysM型受容体キナーゼであることが報告されており、これらの細胞内キナーゼドメインがそれぞれ共生応答、防御応答の誘導を担っていることが示唆されている。我々の最近の研究から、NF受容体であるNFR1はキチン受容体から進化した可能性が高いことが示唆された(Nakagawa et al, 2010)。本発表ではLysM受容体キナーゼの分子進化について最近得られた知見などを紹介しながら、防御から共生への進化のメカニズムについて考察する。