抄録
フラボノイドの一種であるフラボノールは、紫外線防御やコピグメント効果によって花色を調節する役割を有する。マメ科植物では根粒菌との共生にはたらくことが知られ、根粒形成過程でオーキシンの輸送調節に関与することが示唆されている。我々はマメ科植物と根粒菌の共生過程におけるフラボノールの役割を明らかにするために、その生合成に関与するフラバノン3-ヒドロキシラーゼ(FHT)およびフラボノール合成酵素(FLS)をコードするミヤコグサの遺伝子(FHT1、FHT2、FLS1、FLS2、FLS3)の機能を同定した。野生型ミヤコグサ根粒菌を接種し、各遺伝子の転写レベルを経時的に調べたところ、FLS3以外は根粒原基形成に先立つ接種2日目に一過的に上昇し、根粒原基形成後は一定レベルに低下した。一方、nod遺伝子破壊株根粒菌を接種したところ、FLS3以外の各遺伝子は接種2日目からの高い転写レベルが4日目以降も維持された。このことから、フラボノール生合成遺伝子の発現は根粒菌由来の因子に誘導され、Nod因子で抑制されることが示唆された。組織化学的解析によって、FHT1は全体で強く、FLS1は茎頂や根の先端で特異的に発現していることがわかった。現在、根粒形成におけるFHTおよびFLSの詳細な役割を調べるために、生合成遺伝子の過剰発現および発現抑制によってフラボノール生合成を改変した形質転換毛状根の解析を進めている。