抄録
クチクラ層は、植物表皮細胞の表面を覆う疎水性の層であり、長鎖脂肪酸とそれらの誘導体からなるクチクラワックス類を主要成分とする。クチクラ層は、植物体からの水分損失を抑制する重要な役割を担うが、ストレス環境下におけるワックス生合成とクチクラ層の発達の制御様式については、ほとんど解明されていない。そこで強光乾燥耐性をもつ野生種スイカを用いて、クチクラ層の環境応答について解析した。野生種スイカの葉表面に沈着するワックス類の蓄積量は、弱光下で生育させた場合に比べ、強光下では単位面積当たりで約2倍に、強光乾燥ストレス下では約22倍まで増加することが判明した。特に、炭素数31の n-アルカン蓄積量が強光乾燥下で顕著に増加することが示唆された。そこで、クチクラワックス生合成に関与する遺伝子群の発現をreal-time PCR を用いて解析したところ、長鎖脂肪酸合成経路の鎖長伸長反応の初発段階を担うβ-ketoacyl-CoA synthasesと、長鎖アルデヒドからアルカンへの変換を触媒するAldehyde decarbonylaseの遺伝子発現が、強光乾燥ストレスにより顕著に活性化することが判明した。これらの結果は、野生種スイカにおいてクチクラワックス関連遺伝子群が転写レベルで協調的に制御され、強光乾燥ストレス下においてクチクラ層の強化が達成されることを示唆する。