抄録
昆虫による食害は、干ばつなどの環境要因、病原菌などによって引き起こされる病害と並び、植物の生育を脅かす重大な要因の一つである。近年、シロイヌナズナを用いた虫害研究が欧米を中心に進んでいるが、鱗翅目などの農業害虫はシロイヌナズナを短期間で食べ尽くしてしまうなど、研究上の制約も大きい。そこで我々は、微小な農業害虫であるアザミウマに着目し解析を行っている。アザミウマによる食害の進行は比較的遅く、世代を超えて同一のシロイヌナズナ個体上で解析を進めることが可能である。我々はこれまでにミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)を用いてシロイヌナズナのアザミウマ抵抗性と植物ホルモンとの関わりについて解析を行い、植物の誘導抵抗性がアザミウマの繁殖や行動に影響を及ぼしていることを明らかにしてきた。一方で、農業現場においてアザミウマは、害虫であると共にウイルス媒介虫としても大きな問題となっている。本年会では、最新の知見と共にアザミウマによって媒介されるトスポウイルス病害とアザミウマによる虫害との相互作用についても報告を行う。更に、我々が行っているハクサイからの完全長cDNAリソースの開発やデータベースの整備についても報告し、虫害研究におけるハクサイへの展開の可能性についても言及したい。