抄録
植物の食害に対する誘導防衛反応には,摂食阻害物質の生産のような直接的な防衛と,植食者の天敵を誘引するような間接的な防衛とがある.食害により植物から放出される揮発性物質(HIPV)は,天敵の誘引に寄与しており,HIPVの放出は間接的な防衛反応の1つであると考えられる.ところで,植物の過敏感反応において感染部が褐色に変化する現象はよく知られているが,広食性のカンザワハダニがリママメを食害した際の食害痕も褐色の場合がある.我々は植物の加害種特異的な防衛反応の違いを明らかにする目的で,カンザワハダニの個体群から,リママメ葉に褐色の食痕を誘導する赤系統と白色の食痕を誘導する白系統を選抜した.そして,これら2系統はリママメに対して異なるHIPVブレンドを誘導すること,すなわち間接防衛反応が異なることを見いだした.また,防御遺伝子の発現解析およびサリチル酸の定量により,白系統の食害ではジャスモン酸経路が主に誘導されるが,赤系統の食害ではジャスモン酸経路とサリチル酸系路の両方が誘導されることが示された.これらの結果から,先のHIPVのブレンドの違いは,食害で活性化されるシグナル伝達系の組み合わせに起因すると考えられた.さらに,カルシウムイオンの分布や活性酸素種の生成を,共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析することにより,2系統の食害に対するリママメの応答の初期反応の違いについて述べる.