抄録
酸性土壌では、アルミニウムイオンによる根の生育障害が見られ、その主な原因は、根端分裂組織における細胞伸張阻害である。さらに、アルミニウムによる細胞伸張阻害は活性酸素の誘発を伴うことを特徴とし、同様の現象が対数増殖期のタバコ培養細胞でも見られる。ところで、細胞伸張に必要な水吸収には、液胞内の溶質濃度(遊離糖、無機イオン、アミノ酸等)の増加による浸透濃度の増加が必要であり、それを駆動力として水が取り込まれる。液胞局在のインベルターゼは、液胞内のスクロースをグルコースとフラクトースに分解することで、浸透濃度の増加に貢献していると考えられている。本研究では、アルミニウムイオンによる細胞伸張阻害に関連して、アルミニウムイオンの液胞インベルターゼ活性への影響について、タバコ培養細胞とタバコ幼植物の根を用いて調べた。タバコ培養細胞のインベルターゼ活性は粗酵素液を抽出して測定し、根のインベルターゼ活性は組織化学的染色法を用いて観察した。その結果、いずれの系においても、アルミニウム処理により、液胞に局在するインベルターゼ活性が上昇することを見いだした。従って、アルミニウムストレスの下に見られる液胞インベルターゼ活性の上昇は、アルミニウムによる細胞伸張阻害を補う可能性が示唆された。