抄録
最上位完全展開葉のRubisco含量が野生型の120%にまで特異的に増加した形質転換体イネ (Oryza sativa L.) においては、現在の大気CO2分圧および強光下の光合成速度に野生型との差はみられない。その原因を探るために、光合成中間代謝産物やその他の一次代謝産物をCE-TOFMSを用いて網羅的に定量した。サンプリングは光合成速度が定常状態に達した葉を液体窒素中で瞬時に凍結することで行った。形質転換体では3-phosphoglycerateの量が野生型の1.4倍に増加したのと同時に、fructose-1,6-bisphosphateおよびsedoheptulose 7-phosphateも同程度に増加していた。その一方で、ribulose 1,5-bisphosphateを含むその他の代謝産物の量には野生型との差はみられなかった。また、ATPやADPおよびNADPHやNADP+の量やそれぞれの量比にも差がみられなかった。これらのことから、形質転換体においてはRubisco量の増加に伴いその反応が促進されていたものの、RuBP再生産の酵素反応のうちいずれかの段階が滞っていたために、光合成速度の増加が生じなかったと考えられる。また、形質転換体においては他の炭素代謝や窒素代謝にも変化が生じていたので、これらについても議論する。