抄録
酸素発生型の光合成生物は2種の反応中心、PSIIおよびPSI、を用いている。光合成効率を維持するためには2種の反応中心の駆動バランスを保つことが重要である。中長期的なバランス調節は2種の反応中心の存在比を変えることで可能であるが、光環境の短期的変化に応じた迅速な調節には、2種の反応中心へのアンテナの接続状態の切り替えや、2種の反応中心間での励起エネルギー移動(スピルオーバー)、といった機構が提唱されている。紅藻は巨大な光捕集アンテナであるフィコビリソームをPSII反応中心に接続しているが、フィコビリソームが捕集したエネルギーの一部はPSI反応中心にも伝達されている。しかしながら、どのようなエネルギー移動経路でPSI反応中心に伝達しているのかについては不明である。これは2種の反応中心自体はどちらも類似の波長の光を吸収するため、生体内でアンテナを介さずに一方のみを直接励起することが困難だからである。本研究ではPSII反応中心における電荷再結合由来の遅延蛍光に着目し、そのスペクトル分布を解析することにより、アンテナサイズの異なる種々の紅藻におけるスピルオーバーを考察する。