抄録
短日植物イネには3つのフィトクロムがあり、花芽誘導を抑制する。これまでに、長日条件下の朝においてのみ、フィトクロム光信号伝達系が開花抑制因子Ghd7を誘導することが分かっている。この誘導は、フィトクロムによる花芽形成遅延および日長に対する応答に必須である。しかし、個々のフィトクロム変異体の開花期表現型は、それぞれのフィトクロムが独立して、または他のフィトクロムと協調して、花芽形成を抑制することを示唆している。本研究では、フィトクロム一重/二重欠損体を用いて、フィトクロムによるイネ花芽誘導関連遺伝子の転写を詳細に解析した。
まず個々のフィトクロムについてGhd7誘導における役割を調べた。その結果、phyAphyB、phyAphyC変異体はGhd7を光誘導できなかったが、単独変異体は誘導し、phyAおよびphyBphyCが冗長的にGhd7を誘導することが明らかになった。また、phyB変異体ではGhd7や他の開花抑制因子の発現量は大きく変化しなかったが、Ghd7によって強く抑制される開花促進因子Ehd1が日長に依らず高発現した。さらに、日長非依存的に花芽誘導が早い変異体と同等のEhd1が発現しているにも関わらず、長日条件下におけるphyB変異体のHd3aの発現は抑制されていた。これらの結果とEhd1過剰発現体を用いた実験から、各種フィトクロムによるイネ花芽誘導の作用点について考察する。